Kinki Kidsが歌ったことで有名な曲だけど、
2005年にfeat.Ryo fromケツメイシで
セルフカバーしている。
何回も聞くたびにこの歌はものすごい
歌なんじゃないかという思いが
僕のなかにふつふつと湧いてきた。
歌詞を追って、その素晴らしさを解説したい。
『恋はミステリー 人は胸に
悲しい謎をかくして生きている
恋はミステリー 誰かぼくの
胸のナイフを静かに抜いてくれ (Kiss me...)』
歌いだしからサビである。
ここで注目してほしいのは、
「誰か僕の胸のナイフを静かに抜いてくれ」
という一文である。
切なさをこんな表現で表せる人間が
他にいるだろうか。
ナイフがささっている=切なさ
静かに抜いてくれ=切なさを優しく埋めてほしい
切なさや淋しさは歌の不変のテーマだが、
この表現はトップクラスの文学性がある。
最後のKiss me...もキモかっこよくていい。
『また彷徨う 君との距離測る
寄せては返す 波より速く 動き続ける
心くすねる 僕ならばきっと君を包める』
Ryoのラップパート。
彷徨う、測る、返す、速く、続ける、くすねる、包める
でU音で韻を踏んでいく、テンポよく進み、
聞いていて心地よい。
『 なんてめでたい思いでいたこと
昨日までの君は今どこ? 思いはゆれる
隙間を埋めるため ひたすらいたずら君に触れる』
相変わらず語尾で踏みまくる。
ひたすらといたずらでも踏み、ここの
言い方は流れるようにスムース。ナイス。
歌詞の内容を追いかけると、さっきまでと一転
不安ながら追いかける必死な男になっている。
そこに自信はまったくない。
ここから弱気な男が「君」を追いかける構図となる。
『 舞い散る花びら掴むように
あやふや不確かに結わく恋 ただ欲しい恋しい
何気ない時にも感じるから心奪い取りに
見えない行く手にミステリー 感じる握り締め引く手に
離した僕の手はどこにしまう?
気づけば君が離れてしまう 』
「欲しい恋しい何気ない時に」の踏み方とテンポが
非常に心地よく、パートラストの盛り上がりを感じる。
「舞い散る花びら」「不確かに結わく恋」この辺りの
言葉に思いが不安定で成就しないであろう
予感を感じさせる。
テンポの良さが切なさと不安を加速させる。
最後の君が離れてしまう、で完璧にその
不安を的中させてしまう。
『不器用な天使 キスしたあと 突然つれないポーズだね
ぼくは夢遊病 さまよう難破船だよ』
達郎のパートに戻る。
達郎のパートは総じて詞的で、危うさがある。
「不器用な天使」で相当イッっちゃっている感が
出てくる。
深夜に写真を眺めてため息ついたりうっとりしたり
しているような怪しい雰囲気が出てくる。
「僕は夢遊病、さまよう難破船」
このワードもかなりキてる。
相手に酔いすぎている。
『 恋はミステリー 人は胸に 悲しい謎をかくして生きている
恋はミステリー 誰かぼくの 胸のナイフを静かに抜いてくれ』
達郎のサビ。
誰かとは「君」のことなのかと思わせるが、
「君」か君に振り回された心を癒す
別の者なのかはわからない。
『 恋はミステリー できるいつ手に?
本当の君だけを見つけに 覗く 心届くには遠く
望む程にその恋はもろく また揺れだす
気時ちが騒ぎ出し 君の心の底触りたい
他に何も要りはしない この悩みすら君には意味無いかい?』
Ryoのパート。
相変わらず韻がお上手。
最後の悩み、君に、意味、無い、かい、とI音の
連続踏みでテンポをさらに加速させる。
必然切なさも加速する。
Ryoのパートは達郎のパートと比べて
危うさは感じない。
純粋さすら感じる。達郎とRyoの落差がこの曲の
深みを生み出している。
『 残酷な遊戯 女の子の 心は魔女の振り子さ
Noと振り向いた巻き毛が誘って踊る 』
達郎のパート。みなさんももう一瞬で達郎の
パートだと分かったのではないだろうか。
「残酷な遊戯、魔女の振り子、巻き毛が誘って踊る」
この言葉選びも非常に秀逸。
遊戯→女の子→心は魔女の振り子→巻き毛→誘って踊る
この歌詞で、少女から大人の女性までの雰囲気を
流れを表している。
遊んでいると思ったが、遊ばれているのは自分で、
女の子は気づけば魔女である。
見事な展開。
谷崎の「痴人の愛」を彷彿とさせる。
『恋はミステリー 一晩中 せっぱ詰まった空気のサスペンス
恋はミステリー 悲劇でいい 自分に嘘をついたりしたくない
君が欲しい 君が欲しい 他には何にもいらないよ
君が欲しい 君が欲しい 失うものなど何も無い』
2番のサビ。
ここで注目したいのは
「悲劇でいい 自分に嘘をついたりしたくない」
嘘をつけば悲劇でなくなるが、
それができない弱さ。
悲劇に向かう破滅的陶酔を感じさせる。
「君がほしい ほかにはなんにもいらないよ」
ここで
「誰か僕の胸のナイフを静かに抜いてくれ」
の誰かは「君」ということがわかる。
それでいて、ナイフも「君」である。
「君」で切なさを感じ、なおかつそれを
癒せるのは「君」だけである。
この矛盾した思いこそこの歌の真骨頂だろう。
Ryoの「Oh,Oh」という合いの手もポイント。
『夜更けの舗道を渡りながら も一度キスをしようよ
世界中敵にまわして愛してもいい SO, PLEASE!』
やはり達郎パート。少しシンプルになったが、
相変わらずイっちゃってる。
「世界中敵にまわして愛してもいい」
なんて中2病ビンビンな言葉をストレートに
言い放つあたり、全く周りが見えておらず、
相手と自分に酔っている。
SO,PLEASE!のシャウト気味の声がいい。
『 恋はミステリー 心覗く 望遠鏡があったらいいのにね
恋はミステリー 髪を少し 切りすぎたのは揺れてる証拠だね
恋はミステリー 夏の風は 心騒ぎを奏でるクレッシェンド
恋はミステリー 車に乗る 君の背中を密かに尾行した』
サビ。達郎パート。
ここ最高潮にイっちゃっている。
「心覗く望遠鏡があったらいいのにね」
あったらいい、で言い切りだったら自分の
思いだけで終わったかもしれないが、
いいのにね、なので誰かに話している
ような形になる。
そんなことをいい年した男が言ってきたら
どうだろう。怖い。ただただ怖い。
ここから怖さがどんどん出てくる。
「髪を少し 切りすぎたのは揺れてる証拠だね」
なんだかストーカーくさくなってきた。
恋からもう何か別の形へ変化していそうだ。
髪を少し切り過ぎただけで揺れてる証拠と
決めつけるのは明らかに狂っている。
「夏の風は 心騒ぎを奏でるクレッシェンド」
詞的な一文でワンクッション挟む。
十分ヤバイのだが。
「車に乗る 君の背中を密かに尾行した」
完全にストーカーとなった。
もはや恋と呼べるものではない。
執着である。
とことん詞的に気持ち悪さを描く。
『 君が欲しい 君が欲しい この手に時代を抱きしめて
君が欲しい 君が欲しい 他には何にもいらないよ
君が欲しい 君が欲しい 失うものなど何も無い
君が欲しい 君が欲しい 恋はミステリー できるいつ手に?
本当の君だけを見つけに
君が欲しい 君が欲しい 恋はミステリー できるいつ手に?
本当の君だけを見つけに』
最後のサビ。
「時代を抱きしめて」
唐突なわけのわからなさ。
どういうことなのか。
ストーカーが時代を語るな。
それどころか抱きしめるな。
「失うものなど何もない」
さっきまでは
「世界中敵にまわして愛して"も"いい」
と言っていた。
この"も"にまだためらいというか、ブレーキ感が
あったのだが、もう完全になくなった。
アクセル全開フルスロットル変質者。
「本当の君だけを見つけに」
自分は「君」の中に「本当の君」が
いると信じ込んでいる。
自分が見れない、周りが見れないどころか、
ついには「君」すら見えなくなって、
いるかどうかもわからない「本当の君」を
見つけようとしている。
恋は盲目というが、この歌は盲目に
加えてストーカー、ポエマー、にまで
なっている。
恋はミステリーどころか、もうお前が
ミステリーだと言いたい。
キモかっこいいからキモいになり、
怖くなり、最後にはミステリーになる。
しかしこの曲のすごいところは
上記のすべてを踏まえても、
とても格好良く、
綺麗で、素敵であるという点だ。
聞くたびに聞くたびに染みる。
それがこの曲なのだ。
山下達郎なのだ。
ぜひ皆さんも聞いて欲しい。
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