風の強い日だった。
夕飯を食べ終えた僕は、シーシャの準備をしていた。
窓を開け、換気扇を回し、炭に火を点ける。
ボディに水を入れて、フレーバーを取り出す。
さて今日は何を吸おう。
自分の気持ちからフレーバーを選ぶこの
瞬間は実に心地よい。
至福の一瞬。
そんな一瞬に、
僕の目が何かを捉えた。
なんだ。
ひゃぁ!!!!!!
あっ!!!!!!!!!!!!!!
ゴキブリ?!!!!!!!!!!!
洗い終わった食器の上に大型のゴキブリが
いるように見える。
僕は内股でキッチンペーパーを
くるくるくるくるして厚手にし、
スマホで「ゴキブリ 駆除」と調べた。
大型で黒い。あれはクロゴキブリだろう。
外から入ってきたはずだ。
ふとみると、強風からか網戸が少し開いていた。
これは濃厚だ。
今まで小さいものも含めて、家でゴキブリを
見たことはなかった。
ゆえに、殺虫剤などもない。
1人暮らしで怖い瞬間トップクラスに
ランクインするこの
ゴキブリエンカウント。
本当にこんな怖いと思わなかった。
泣きたい。
助けてほしい。
でも助けはこない。
当たり前だ。
とりあえず、ごみをまとめて、ごみ箱に入れ、
ふたをキチンとしめた。
寝室との仕切りのドアを設置し、
寝室に行かないようにした。
あたりを見回す。
ゴキブリは水回りに集まりやすい。
キッチン周辺をくまなく探す。
いない。
脚がむずむずする。
背中を這っているような錯覚に
陥る。
どこだ。
どこにいる。
くそぉ。
乙女にようにビビっている場合では
なかった。
一瞬で殺すべきだった。
後悔。
しかし探し続けるうちに、
心にも余裕が戻ってきた。
こんだけいないってことは
どこかから逃げたのだろうか。
この家には隙間も結構ありそうだし。
とりあえず今日は疲れたしなぁ。
寝室にはもう入らないし大丈夫っしょ。
明日には死んでるかもしれないし。
チガウ・・・・・・・。
え?
コロセ・・・・・・・・・。
聞こえる…僕の内なる声が…
ゴキブリ、コロセ・・・・・!!
ホロボセ・・・・ゴキブリ・・・!!
なぜかカタコトなその心の声は
僕に必死に訴えかけてきた。
人間がゴキブリを嫌うのは人間の先祖の
天敵がゴキブリだったからなんて迷信がある。
突然聞こえたこの声は・・・?
まさか・・・・?
俺の祖先・・・・?
コロス・・・・・・
ゴキブリ・・・・・・・
次第に僕にも
「必ず・ゴキブリ・殺す」
という精神が染みてきた。
僕はダッシュでイオンに行き、
ゴキジェットプロとコンバットを買った。
僕の顔には「殺すゴキブリ殺す」と
書いておりその殺気は辺りを圧倒していた。
店員はもちろんのことフードコートに
いたイスラム系の女性も僕をおびえる目で見ていた。
絶対ゴキブリ殺すマンとなった僕は
手早くコンバットを部屋の主要部に設置し、
またスプレーを手早く噴射した。
奴は出てこない。
持久戦か。
望むところだ。
僕は自分のベッドの周りに
ファブリーズを乱射しまくり、
(ファブリーズはゴキブリが
よらなくなる効果があるらしい)
ゴキジェットをすぐそばに置いて眠った。
明日、奴の死体が楽しみだ。
もはやゴキブリに恐れていた俺は
遠い過去の存在である。
文明の利器と知恵を武器に、
俺は必ずや勝利を収める。
ゴキブリ、コロス。
PS:翌朝、無事死亡確認しました。
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