僕が村上春樹の作品で最も素晴らしいと思う
ポイントはその比喩表現の巧みさだ。
翻訳家としての経験値と自らのユーモアを
混ぜ合わせたその比喩は他の作家では
表現することのできない唯一無二のものだ。
ここでは、最近読んだ騎士団長殺しの中で
秀逸だと思った比喩を紹介したい。
卵を破らないオムレツがないのと同じように
村上作品はよく食べ物が出てくる。
〜がない、ということを表現する時に
卵を破らないオムレツ というワードを
持ち出してくる親しみと素朴な味わいが素敵だ。
時間の流れる音が聞き取れそうなほどの沈黙
静かさを表現するために逆説的に
時間の流れる音が聞こえるなんて状態を
使うなんて、とんでもない頭の柔らかさだ。
考えると確かに、何も聞こえない沈黙よりも
時間の流れる音が聞こえる沈黙の方が
より深い静けさを感じられる。
頭の良い大型犬に簡単な動詞の 活用を教えるみたいに
暖かみのある比喩だ。
徒労も徒労と感じさせないような希望を感じる
深みが伝わる。
渡り鳥たちが国境という概念を持たないの と同じように
とても爽やかで自由さに富んだ言葉だ。
概念を持たない、考えがない、という
マイナスのイメージに転びそうな言葉と
渡り鳥という言葉をくっつけられる発想は
いったいどうなってるんだろう。
今までこれが自分の道だと思って普通に 歩いてきたのに、急にその道が足下から すとんと消えて無くなって、何もない空間を 方角もわからないまま、手応えもないまま、 ただてくてく進んでいるみたいな
簡単な言葉しか使っていないのに
本当に途方もない感覚が強く伝わってくる。
シンプルな削ぎ落とされた美しい比喩。
レストランで二ソワーズ・サラダを注文している豹の姿が想像できないのと同じくらい。
洒落っ気とユーモアが不安定さの上で
バランスをとっているような比喩だ。
そりゃ想像もできないよな、と思わせる。
あとニソワーズサラダってなんだ?
古いジャガーと同じだ。トラブルの発生しない うちはとても気持ちよく走る。
なんだかよくわかんないけど、納得させられる
力がある。これは主人公の夫婦生活の言葉だった。
確かに、男女関係はこんな感じなのかも知れない。
スピーディーに、快適に、美しく物事が進む。
トラブルの起きないうちは。
それは最初のうちは、遠くの海岸に義務的に 気怠く寄せる、気乗りのしない波の音のように
義務的に気怠く寄せる気乗りしない波??
一体どんな波だつていうんだろう。
ちょっと訳がわからない。
けどその訳の分からなさにくらくらする。
何も書かれていない真白な広告看板を 思わせる沈黙
またしても沈黙の比喩。
これはさっき紹介したのとは種類の異なる
非現実を感じさせる比喩だ。
ほんとうにまっさらな沈黙。
村上春樹なら沈黙を百通りは表現できるのかも
しれない。それでも驚きはしない。
まるで前方の空間の一点に浮かんだ大事な しるしを見失うまいと心を決めているみたいに
村上春樹らしい繊細な力強さを感じる。
簡単な言葉で大切なことをしっかりと掴んで
びゅっと心のキャッチャーミットに投げ込んで
くるようなストレートさがナイスだ。
僕もいつかそんな言葉を捉えてみたい。
ps.LINEのアイコンを変えたいけど、変える写真を
迷っている内にめんどくさくなって
いーやってなっちゃいます。
あるあるですかね?
↓は僕に少しに似ている吉岡秀隆さんです。
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