刈り取られたばかりの子羊の毛のような雲が
少しずつオレンジ色に照らされていく様子を
僕は機内の丸窓からぼうっと見ていた。
数分経つと、
今度は飛行機が朱色に照らされていく。
そして空は優しく軽い青色から深い赤色への
グラデーションを作り出す。
更に経つと青色が濃度を増して、
その中に雲も飛行機も包み込んで行く。
わずかな赤色は眩いほどに輝いて、
空と雲のコントラストを強く表す。
下を見れば都市の灯りがぽつぽつと瞬いて、
人々の営みを思い起こさせる。
僕は昨日の事を思い出していた。
台湾2日目のことである。
のそのそと起きて朝ごはんを食べに行く。
例にもれずルーローハン、流石に少し
飽きてきた。どこで食べてもおさらく
大差はないだろう。
豚バラを細かくカットして醤油と酒と
みりんと砂糖、
そして八角をどこどこと加えて煮詰めれば
はい出来上がり、という感じだ。
近くの水タバコショップに行く。
フレーバーは2種類しか売ってない。
水タバコはまだまだ浸透していないようだ。
地下鉄にのって台北101に行く。
台北101は東京スカイツリーみたいなもので、
とても高い建造物だ。
お値段も高いので、僕は見上げるだけであった。
周りはショッピングモールとなっており、
そこでお土産などを探す。
まぁしかし、なんというか百貨店は
完全に日本のそれと同じであった。
1階の広場ではNintendo Switch体験会場が
開かれており、多くの人々が並んでいた。
やはりポケモンは世界で大人気なのだな…
感慨深いものがあった。
適当な店に入る。
店と言っても、野外にテーブルと椅子を置いた
だけの簡素なものである。
なんだか赤羽にも似ている。
そう、台湾は赤羽に似ている。
レトロさ、雑多さ、たくさんの人々、
赤羽はアジアの香りをまだ残す街
なのかもしれない…
牡蠣ソーメンなるものを食べる。
出汁と少しのナンプラー、モツと牡蠣の旨味が
染みている優しい味の麺であった。
向かいに座っているおじさんが
「オイシイカ」と聞いてくる。
「美味しいです」とほほ笑んで返す。
これが始まりだった。
「日本人か?よし、ちょっと待て。」
言われるや否やわらわらと何人か
集まり始め、中には日本語ができる人まで来た。
「飲め飲め」どんどんとビールを渡される。
イカの炒め物と塩豆をどささっと渡される。
僕はぐびぐびとビールを飲み、タバコを吸った。
何しにきた、何歳だ、結婚は、趣味は、
名前は、野球は好きか、台湾はどうだ、
なぜここに来た、これを食うか、
ビールを飲め飲め、
矢継ぎ早にぽんぽんと聞かれる。
親日国というのは本当だったんだな、
言葉がわかる人もわかんない人もすごい
フレンドリーである。
お酒も酌み交わしてニコニコし、握手を
交わせばもう言葉は必要無い…
仕舞いにはカラオケに連れていかれる。
こっちのカラオケはスナック形式であった。
日本の歌もあるぞ、と言われ
目録を見てみるとこの古さである!
熱唱する魚屋の亭主
およそ40年は時代が止まっているの
ではないだろうか、
「世界に一つだけの花」を歌ってなんとか
しようと思っていたが、あるわけもない。
ならばもう、この歌しかあるまい。
僕は「上を向いて歩こう」を入れた。
上を向いて 歩こうよ 涙がこぼれないように 思い出す 春の日 一人ぼっちの夜…
台湾で僕は一人ぼっちを味わい、
そしていつのまにか
一人ぼっちではなくなっていた。
異国の喧噪の中で僕は笑いながら
ひたすらビールを飲んでいた…
PS.この後べろべろに酔っ払いお土産を
探すこともできなくなり、宿に帰るまでの間で
7000円ほど入ったポーチを落としました。
台湾は泥酔できるくらい安全な街です。
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