ヒッチハイクをすると、当然ながら
いろいろな場所でいろいろな人達に出会う。
乗せてくれる人、差し入れをくれる人、
話しかけてくる人。
たくさんの人達とコミュニケイトを
したが、一番印象に残っているのはやはり
大阪西成の人間たちだろう。
初めてのヒッチハイクで福岡に行き、その
帰りに大阪でも遊ぼうと思って西成に
行った時である。
スーパー玉出や、1杯90円といったデフレを
起こしている居酒屋を見て、
「これが日本のスラム・・・」と思ったことを
強く覚えている。
商店街を抜けると、猫の眺めているおばさんに
出会った。
旅のテンションもあるのだろうか。
僕はおばさんに話しかけていた。
「かわいい猫ですね。」
おばさんは僕をちらと見ておどろいた様子もなく、
落ち着いてこう言い放った。
「猫はええ。人間と違ってな。」
なんだこの回答は。
更におばさんは続けた。
「猫はええ。飯を与えれば裏切らん。」
「旅行か?ここは汚い奴らばかりやろ?
シャブ中・アル中・外人しかおらん。」
「あんたユダヤ人か?」
堰を切ったようにおばさんは話始めた。
ちなみに僕は純日本人である。
「酒奢ったるわ。好きなの押し。」
おばさんは自販機に100円玉を入れた。
自販機には謎のカップ酒が70円で売っていた。
200mlくらいのプラカップに「酒」とだけ書いた
ラベルが張ってある。胡散臭すぎる。
僕は迷わずにそれを押した。
毒を食らわば皿まで。
西成に入ったなら西成に従おう。
僕がお礼を言うとおばさんは
すたすたと歩いていってしまった。
まるで幻のような意味のわからない時間だったが、
カップ酒の重さが現実であることの証左である。
ちまちま飲みながら更に歩くと、
歩道に大人達が4人、
車座で座って酒盛りをしている。
老婆(砂かけババアの様な風体)
中年女(前歯2本がない)、
中年男性(メガネがひび割れている)、
中年男性(右手の薬指の第1間接から先がない)。
濃いメンツで集まった!とか言ってる
学生に見せつけたい濃厚なメンバーだ。
酒の勢いもあってか、僕は声をかけた。
「飲んでるですか?混ぜてくれます?」
彼らは僕を歓迎してくれた。
座るやいなや、
老婆がしきりに僕の股間にソフトタッチする。
「兄ちゃん、どうや?」
どうや?ではない。
何をしているんだお前は。
メガネ男性は突然歌い始めた。
聞いたことのない演歌だったが、
なるほど美声で、一同拍手。
突然歌い始めた理由はなにもわからない。
指なし男性はなまりが強く、何を言ってるか
半分以上わからない。周りのメンバーはわかるの
かと思ったが、どうも分かってなさそうである。
中年女はどこからかもってきたゴムボールを
僕に投げる。僕も投げ返す。
会話をしながらキャッチボールが始まる。
「わたしさー」
「うん?」
「3回堕ろしてるんだよね」
そんなことをいきなり話すな。
こいつコミュ力が壊れてる。
「でも2人子供いるんだー!」
「ほーん」
「もう顔もわかんないけど!アッハッハ!」
もう黙ってくれないか。
この人達はいったい、何なんだ。
本当に僕はいったい、何をしているんだ。
日が暮れたのでめいめい帰ることになった。
男性二人は激安居酒屋に繰り出すようだ。
老婆はホームレスのようで、近くにあった
ダンボールハウスを僕に見せつけ、
「兄ちゃん、どうや?」
と自信たっぷり言い放った。
どうや?ではない。
なんなんだ、お前は。
中年女はどこからかチャリを
持ってきていた。
話を聞くところによると、僕の
泊まるカプセルホテルの近くが
住まいらしい。
「二人乗りで行こ!」
女子高生のような提案である。
これが本当に女子高生なら嬉しい限りだが、
目の前には、
前歯がなし、クッタクタのスウェット、
プリン化したバサバサの髪、キティサンダルを
履いた太った女性である。
「よし、行こう!」
僕はジムキャリーの如きイエスマンと化した。
ペダルは回すたびにギッシギシと音を
立てる。この女重い。
なんとか女の家の近くまで到着。
「上がってく?家で飲まない?」
女は言った。
「いやいやほんともう・・・迷惑になりますし・・
ほんと・・・お疲れっした!」
僕の中のジムキャリーはあっさり白旗を揚げた。
小走りでカプセルホテルに向かった。
夕日が街を染めていた。
大阪西成、一度は行って欲しい場所である。
PS.オフィスで1番に地震に気づきました。
0コメント