旅に出たい日である。
少しひんやりした風と強い日差しが降り注ぐ
12月の朝、僕は旅に出たくなった。
そう、僕は安定を求めに求めるゴリゴリの
保守的人間であると同時に、ふいに旅に出たくなる
衝動に駆られる人間でもある。
これは中学2年生の時の旅に出たさと似ている…
僕はその日、友達の家に向かう途中だった。
バスケ部のたまり場化していた友人のマンションは
1階にドラッグストアが入っている。
僕らはそこでテスターのワックスと
ハンドクリーム、ヘアオイルをゴリゴリに
使ってから友人宅に向かうのが定例であった。
少し遅れて友達の家に向かった僕は、
その日ピーチの香りのするヘアオイルを
髪に塗りたくっていた。
その時にふと思った。
なんだか行ったことのない場所へ行きたい…
時刻は12時。
僕は友人に適当な理由のメールを打って、
そのドラッグストアから飛び出した。
この時に友人を誘うということを全く
考えなかったことが今でも一人でふらふらと
旅行に行くことに繋がっているのかもしれない。
中学生男子が遠くに行く、
となればもちろん自転車である。
どこに向かえばいいかわからなかったが、
とりあえず大きい道路をまっすぐ行けば
なにがしかの発見があるだろうと思い、
中山道をひたすら直進した。
そして、開始から45分で早くも中山道を
脱線した。
そもそも国道の概念がなかった僕は、
とにかくまっすぐ、あと都会に行く。
という昭和のロックシンガーのような
純粋な思想で進んでいたため、
中山道を外れ、中野方面に向かっていた。
なにはともあれ、自転車で遠くに行くことは
とても気持ち良かった。
ipodから流れるスピッツはどこまでも
僕の気分を高めた。
「君の青い車で海へいこぉ~」
ソプラノボイスを響かせながら進む。
このどこに行くかわからない感じ、
どこまでも行けるんじゃないかという
謎の自信が僕の中で弾けていた。
晴天の中見慣れぬ景色を通り抜けて行く。
知らない店、知らない学校、知らない公園。
僕が自転車を漕げば漕ぐほどたくさんの
知らないが僕の脳に飛び込んでくる。
この知らないを満たすために僕は
生きているのかもしれない…。
おぼろげにそんなことを考えた。
中野坂上のスーパーで
菓子パンとコーラを買って、ガードレールで
ぼーっと休憩していた時母親からメールが入った。
「今日の夕飯、お父さんいないから
どこか食べに行きませんか?」
夕飯は寿司が食べられるという事実の前に、
旅情は不要。
僕は傾き始めた陽光を浴びながら、
立ちこぎで来た道を帰り始めた。
寿司も食べて、旅にも出たいです。
PS.kiki vivi lily が今僕の中で最高です。
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