レースだ。

そわそわする。


こんな気分になったのは初めてかもしれない。

いつかもなったのかもしれないが、

もう思い出すこともできないくらいの

昔のことだろう。


10/28 AM6:00 

僕はストレッチをしていた。

レトルトのバターチキンカレーを食べ終え、

バナナを食べながらゆっくりと

脚をほぐしていく。


太ももの後ろ側、前側、ふくらはぎの前側、

後ろ側と順序立ててストレッチングをする。

心地よい痛みがする。


今日はレースである。

皇居一周5000m。

短い距離だ。


だけど楽な距離ではない。


むしろ10kmやハーフマラソンよりも

キツくなるだろう。


5000mは手を抜くことができない。


まぁ、このペースで進めていこう。

なんて考えでは走ることができない距離だ。


最初から自分の心肺に負荷をかけ、

ひたすらに自分の内側の悲鳴を聞きながら

走り続けることとなる。


厳しい距離である。


PM7:00

シャワーを浴びて、音楽を聴きながら

リラックスする。


スタートはAM10:30。

まだまだ時間がある。


目標タイムは18:40。

1kmあたり3:44で走ればよい計算だ。


前回大会、前前回大会の優勝タイムは

19:10秒台。


順当にいけば優勝を狙えるタイムだ。

もちろん、「順当にいけば」の話である。


PM8:00

落ち着かない。

こういう時に僕はよく村上春樹を読む。


「ノルウェイの森」で直子と僕が東京を

ひたすらに散歩するシーンを読む。


シュールな雰囲気の二人のテンポが、

今の自分とあまりにかけ離れていて、

それが心地よかった。


PM9:00

有楽町線桜田門駅で降りる。

同じ大会に出る職場のメンバーに

声をかけられる。


皇居時計台の前には既に多くの

ランナーでごった返している。


スタート前のランナーは皆速そうに

見えてしまう。

シューズ・ウェアで早い人はなんとなくわかる。

自分もそう見られているのだろうか。

スタート前の空気というのは日常では

決して味わうことができない。


緊張感に包まれるなんて、

いったい何年ぶりのことだろう?


入試や就職試験のそれとはまた違う。

不思議な空気だ。


PM10:00

スタート30分前。

かるくジョグをして体を温める。


後は野となれ山となれだ。


PM10:30

スタート。

すがすがしい空気が僕を包む。

快晴の東京都心には多くの観光客がいる。


アジア系から欧米系まで、多くの人が走ったり、

うろうろしたりしている。

走り始めれば当たりを見回せる余裕が出る。


なんだか走る前の方が慌てていて、

それもおかしな話である。


PM10:31

既に一人抜け出している。

とても速い。

落ちそうにも思えない。


優勝はないな。


走り始めて1分で僕は早々に見切りをつけた。


走り始める前までは絶対優勝したいと

思っていた。


しかし明らかにレベルが異なるランナーが

前を走り抜けていく。


彼はフェラーリ。

対する僕はフリードぐらいだろう。


嫌になっちゃうぜ。


だけど手を抜く理由にはならない。


走り切らなくてはならない。


それがレースである。


PM10:35

スタートから5分。1kmといくらか走ったあたりで、

序盤に突っ込んでいた2人が落ちる。


ここからは一人旅である。


気楽でいい。


PM10:41

皇居最大のポイント。

竹橋前の坂に差し掛かる。


心臓がはち切れんばかりである。

前にスタートしている女子グループを

かき分けて進む。

脚を止めてはならない。


走るのみである。


PM10:43

半蔵門のあたりから一気に下りになる。


死んだ脚に鞭を打って走る。

自分のスピードがわからない。

下りが終われば桜田門になり、

すぐにゴールだ。


先頭のフェラーリ君は影も形も見えない。


やれやれ。

朝5時に起きて2位止まりか。

週に3、4日走って準優勝か。

全く、まいっちゃうな。


いや、

そもそも2位かどうかはまだわからない。


後ろから誰か迫っているかもしれない。


振り返る余裕もない。


走るのみ。


AM10:47

下りが終わり最後の平地。


残り400mくらいだろうか。


死んだ脚でラストスパート。


喉が痛い。

咳がでる。


ゲロを吐きたくなる。


ゲッホゲッホ言いながら、

涙と鼻水を出しながら、ラストスパート。


桜田門を抜け、腕を振る。


ゴール。


タイムは18:29。


2位。


準優勝。



目標タイムはクリアした。


今できる最大の力を使えたことは

間違いない。


満足かどうかといわれると、

どうだろう。


でも悔しいかと聞かれると

悔しくはない。


優勝者のタイムは16:50。


うーん、ケタが違う。



なんだか情けない終わりのような気もするが、

まぁ、がんばったで賞くらいは

自分にあげてもいいだろう。


家に帰って、チョコパイを食べよう。



そんなことを思いながら、

記念品を貰いに運営スタッフの

案内に従って歩いた。



今日も何かを間違えた

日々の中で間違えたこと ずれたことを綴ります。 岩崎キリン:iwa191cm@gmail.com

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