東京での生活にピリオドが打たれると
決まった時から、すべての景色が輝き始めた。
自宅の窓から見える風景、
カーテンから差し込む光で照らされる
ワイン瓶に活けられたバラ、
コーヒーの染みがとれないカップ、
本当に些細で小さなもののひとつひとつが
愛おしく感慨深く感じられる。
気だるさとルーティンの渦の中の
通勤路すら、しみじみと心に染み込んでくる。
日中の陽気はもう春の訪れを感じさせる
暖かさで、僕の心を弾ませる。
自分でも自分の心の動きがわからない。
現実的な物事はたしかなスピードで回り始めて、
砂時計をひっくり返したように残りの時間が
さらさらとこぼれ落ちていく。
焦りと悲しみが心に影を差しているのは
違いないが、同時に説明の付かない光も
僕の心を照らしている。
鬱と躁なのだろうか。
アンカーの外れたゴムボートのように
心がふらふらと彷徨っている。
僕の心とは、僕の目印とはどこなのだろうか。
自宅のすぐ近くには清掃工場の煙突が
あいも変わらず無機質に聳え立っている。
この無機質さは何も変わらない。
感慨の入る余地もなく、きちっとそこに
立っているだけだ。
この塔は僕の目印であった。
心を休める訳でもなく、冷たさを感じるでもない。
ただ目印として、一人暮らしを始めた僕の目印
としてそこにいつも存在していた。
それは物理的にも、精神的にも
"当たり前"のこととして存在していた。
目印。
みんなとの旅行から帰った時に、
楽しかったシーンを思い出しながら転がり込む
ベッドの柔らかさだったり
麻雀を始める前に集合するコンビニの空気だったり
深夜のSAや地方のコンビニでみんなでタバコを吸うときの不思議な雰囲気だったり
それらのことが僕の目印であり、居場所であり、
よりどころであった。
それら全てが遠くになるけれど、
今は全てが輝いている。
何一つ逃すことなく、この輝きを網膜に
焼き付けて心の奥深くにセーブしておきたい。
これまでの輝きと、これからの輝きに
感謝と期待を込めて今日も眠る。
ps.黒猫に横切られました。横切ったあとで
睨まれたのでピースしてやりました✌️
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